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東京地方裁判所 昭和48年(ワ)8646号 判決 1976年11月12日

原告(反訴被告) 関東運輸株式会社

右代表者代表取締役 神田孝世

右訴訟代理人弁護士 山野一郎

被告(反訴原告) 志村貨物運送株式会社

右代表者代表取締役 横関維明

右訴訟代理人弁護士 日野和昌

同 島林樹

同 安田昌資

主文

一  被告(反訴原告)は、原告(反訴被告)に対して金二二万六、八五九円、及びこれに対する昭和四五年一〇月三〇日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告(反訴被告)は、被告(反訴原告)に対して金二八万七、〇二五円、及びこれに対する昭和四九年一一月一日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告(反訴被告)、及び被告(反訴原告)のその余の各請求はいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、本訴反訴を通じて四分し、その三を原告(反訴被告)の、その余を被告(反訴原告)の負担とする。

五  この判決の第一、二項は、仮に執行することができる。

事実

第一申立

以下において原告(反訴被告)を単に「原告」、被告(反訴原告)を単に「被告」という。

(原告)

「本訴につき」

一  被告は、原告に対して金八四万円及びこれに対する昭和四五年一〇月三〇日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  本訴訴訟費用は、被告の負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言

「反訴につき」

一  被告の反訴請求を棄却する。

二  反訴訴訟費用は、被告の負担とする。

との判決。

(被告)

「本訴につき」

一  原告の本訴請求を棄却する。

二  本訴費用は、原告の負担とする。

との判決。

「反訴につき」

一  原告は、被告に対して金四三万三、〇六八円及び内金四〇万三、〇六八円に対する昭和四九年一一月一日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  反訴費用は、原告の負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言。

第二主張

(原告)

「本訴請求原因」

一  事故の発生

原告は、左記の交通事故(以下「本件事故」という)によって後記損害を蒙った。

(一) 発生日 昭和四五年一〇月二九日午前八時四五分頃

(二) 発生地 川口市領家四丁目九番三二号先交差点

(三) 原告車 営業用貨物自動車(練馬四四あ六一二)

浜田良雄運転

(四) 被告車 貨物自動車(練馬一一あ三六三)

原耕作運転

(五) 態様 原告車は西から東へ、被告車は北から南へ各進行してきて本件交差点上で衝突した。

二  責任原因

(一) 本件交差点は、標識は設置されていないが、原告車の進行してきた道路巾員の方が被告車の進行してきた道路巾員より四メートル弱広く、そして原告車は道路左端を時速約三〇キロメートルで、被告車は時速約五〇キロメートルで本件交差点に差しかかり、原告車の方が先に交差点に進入した。

そうすると原告車は明らかに広い道路から先に交差点に進入したのであるから被告車に優先し、よって被告車の運転手たる訴外原耕作には、原告車に進路を譲るか、もしくは原告車の動きに注意し、衝突を回避するため交差点に進入するに際し減速徐行等適切な措置をとるべき注意義務があるところ、同人はこれを怠り漫然右速度のまま被告車を本件交差点に進入させた過失により、被告車前部を原告車左側面に衝突させた。

(二) 被告は、貨物運送業を営み、右訴外原耕作の使用者で本件事故は、訴外原耕作が被告の業務を執行中に生じたものであるから、民法七一五条により被告は原告の蒙った損害を賠償すべき義務がある。

三  損害

本件事故により原告車は大破し使用不能となった。よって蒙った原告の損害は次のとおりである。

(一) 車輛代 六〇万円

原告車は、昭和四五年八月に購入したもので、本件事故当時購入後二ヶ月しかたっておらず、その価格は右金額であった。よって使用不能により六〇万円の損害を蒙った。

(二) 営業補償 二四万円

原告は、原告車の代わりの車輛を購入したのであるが、購入に三〇日を要したところ、当時原告車の一日当りの実収入は八、〇〇〇円であった。

よって代替車輛購入までの期間原告は右金額の得べかりし収入を失った。

四  結論

よって原告は、被告に対して右合計八四万円及びこれに対する不法行為の発生の翌日たる昭和四五年一〇月三〇日以降完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

「過失相殺の抗弁に対する答弁」

本件交差点付近の道路巾員についての被告の主張は争うが、仮に被告主張どおりであるとしても、被告車が進行した道路は、交差点の手前の巾員が六・三メートル、向う側が三・四メートル、他原告車が進行した道路は、交差点の手前の巾員が六メートル、向う側が七・九メートルであって、原告車進行道路が明らかに広く、優先道路であることには変わりはない。しかも被告車が左折しようとしたのであれば、右方から来る直進車たる原告車の進行を妨げてはならなかったのである。被告は、被告車の進行した道路の方が主要であると主張しているが、原告車の進行道路の方に東芝をはじめ大工場が多数存在していて交通量が激しく、事実に反する。

さらに本件交差点の被告車進行方向左側に工場があって左方の見通しは極めて悪かったのに被告車は前記のとおり漫然毎時五〇キロメートルの速度で進入したのであり無謀というより他はない。

以上の次第で本件事故発生につき被告の過失は極めて大きい。

「相殺の抗弁に対する答弁」

仮に、被告が原告に対して本件交通事故による損害賠償請求債権を有しているとしても、被告の相殺の主張は民法五〇九条によって許されない。

なお被告は、原告が、被告の損害賠償債権の時効による消滅を見越して突然訴を提起した旨主張するが、原告は本件事故後再三被告に損害を賠償してくれるよう交渉したが、埓があかないのでやむなく本訴を提起したのである。被告主張のごとく原告に対して莫大な損害賠償債権があるのなら、何時でも原告に請求できた筈であるのに、そのような請求はなかったのであるから、被告の損害賠償請求権につき相殺の抗弁が認められず、しかもそれが時効によって消滅したとしても、その責は自身で負うべきものである。

「反訴請求原因に対する答弁」

反訴請求原因一項のうち、原告車が事業用小型貨物自動車であることは否認し、その余の事実は認める。

同二項中、原告が使用者責任を負うことは認めるも、前記のとおり訴外浜田良雄には過失はない。

同三項は否認する。

「消滅時効の援用」

仮に原告が被告に対して本件事故による債権を負担しているとしても、反訴提起時には本件事故発生の日から三年を経過して時効によって消滅している。

原告は、被告に対して昭和五〇年一月三〇日、本件第三回口頭弁論期日において、時効の援用の意思表示をなした。

なお原告が、調停期日において債務の承認をしたことはない。

(被告)

「請求原因に対する認否」

請求原因一項の事故の発生は認める。

同二項中、本件交差点に標識が設置されていなかったこと、被告車の運転手たる訴外原耕作の過失によって本件事故が生じ、被告が使用者責任を負うことは認めるも、本件交差点付近の道路巾員、訴外原耕作の負うべき注意義務の内容についての原告の主張は後記のとおり争う。

同三項の(一)は否認する。原告車は充分修理可能であった。同項の(二)は不知、なお原告車の休車損は、被告車の休車損から推定して、一日当り五、二六〇円以下である。

「過失相殺の抗弁」

一  原告の主張と異なり本件交差点付近の道路巾員は、原告車進行道路が六メートル、被告車進行道路が六・三メートルで、両車線の巾員はほぼ同一で、一方が明らかに広いとはいえない。かえって交通量は、被告車進行方向から本件交差点を左折する車が圧倒的に多く、原告車進行道路から本件交差点に進入するのは東芝関係の車に限られるといった状態で、被告車進行道路が主道路となっている。このことは、現在では原告車進行道路に一時停止の標識が設置されていることからもうかがえる。

そうすると、被告車が本件交差点で左折しようとしたか、直進しようとしたかに関わりなく、本件交差点では左方車優先の原理が適用さるべきである。

二  本件は、原・被告車とも時速約四〇キロメートルで本件交差点に差しかかったのであるが、相互に相手方車の進行に対する見通しは良好で、交差点各一五メートル手前で双方とも相手方に気づいていた。

そして被告車の運転手たる訴外原耕作はクラクションを鳴らして先に交差点を通過する旨を相手方に知らせたので、原告車は停止してくれると判断し、減速することなく進行した。

他方原告車の運転手たる訴外浜田良雄は被告車が近づいてくるのを知りながら先に交差点を通過できるものと速断し、クラクションも鳴らさず、漫然交差点に進入し、衝突するまで何の措置もとらなかった。

右訴外耕作は衝突地点手前七・二メートルでかかる原告車の様子に気づき急制動の措置をとったが間に合わず交差点中央で衝突し、両車とも西沢秀夫所有店舗に突込んだ。

三  そうすると本件事故は、被告車の運転手たる訴外原耕作の過失と、原告車の運転手たる訴外浜田良雄の、左方車優先の原則、並びに被告車のクラクションを無視して減速することなく本件交差点に進入した過失とによって生じたもので、その過失割合は、原告車六割、被告車四割をもって相当とする。

「相殺の抗弁」

一  被告は、本件事故により次のとおりの損害を蒙った。

(一) 車輛修理代  三一万三、二六〇円

(二) 車輛格落ち分 五万円

被告車は、昭和四五年九月二六日に購入したもので、事故当時新車であった。よって修理により右格落ち損が生じた。

(三) 休車損 一八万円

原告車の休車損は一日当り九、〇〇〇円であるところ、車輛修理に二〇日間を要した。

(四) 西沢秀夫方修理費 一二万八、五二〇円

衝突後、原告車と被告車は西沢秀夫所有の店舗に突込み、その柱、カンバン等を損壊し、被告においてその修理費として右金額を支払った。

(五) 過失相殺等

前記のとおり本件事故は、原告車六割、被告車四割の過失割合によって生じている。

よって被告は原告に対して右(一)ないし(三)の合計五四万三、二六〇円につき四割の過失相殺をした三二万五、九五六円の損害賠償債権、(四)の損害のうち原告の過失六割に基づいて算出した七万七、一一二円の求償債権の合計四〇万三、〇六八円の債権を有することになる。

二  そこで被告は原告に対して昭和五〇年三月六日、本件第四回口頭弁論期日において右被告の原告に対する債権をもって原告の被告に対する損害賠償債権とその対等額において相殺する旨の意思表示をした。

原告の過失を考慮すると、被告の原告に対する債権額が、原告の被告に対する債権額を上回っているので、原告の債権は消滅し、被告は何らの支払義務も負担していない。

三  なお原告は、民法五〇九条によって相殺が許されない旨主張するが、同一交通事故に基因する損害賠償債権については同条を適用することは容認し得ないところである。

すなわち同条の立法趣旨は、被害者に対する現実的弁済の強制と不法行為誘発の防止にあるとされるところ、同一の事故から生じた双方的不法行為による損害賠償債権についてはそのいずれも根拠となり得ないことは多くの学説の指摘するとおりである。

のみならず同条を適用し、自己の相手方に対する債権は訴の提起のみによって保全を図るべきだとの立場をとれば、当事者が過失割合に応じて差引勘定をした結果、差額が少額なので裁判に要する費用と時間を考え、訴を提起するまでもないと判断しても、自己の債権が時効で消滅すれば一方的に多額の金員の支払を強制されることになるので、提起を望まない訴を強制されることになる。

さらに本件のごとく、原告は時効寸前まで何の請求もなさず、被告の債権が時効で消滅するのを見越して訴を提起したような場合、情のある被害者は救われず、無情の加害者のみが弁済を受けるという事態も発生するわけで、著るしく正義に反することになる。

すなわち事故発生当初原告は、被告に再三賠償の支払を要求したが、あまりに強圧的態度であったので被告は話合を拒否したところ、昭和四六年半ば以降本訴が提起されるまで原告から一度も賠償請求はなかった。

他方被告としては原告と同業者であるところから紛争は好まなかったし、過失割合から相互に自己の損害を負担するのがもっとも妥当な解決策であると考えていたので、原告から請求がないことは、原告が自己の負担分を納得したものと判断し、本件事故をめぐる紛争は解決したものと考えていた。

ところが原告は、事故後三年を経過する直前に本訴を提起し、本訴状が被告に送達された時には三年を経過していて損害賠償債権につき消滅時効は完成していたのである。

かかる場合民法五〇九条の適用を排除するか、原告の消滅時効の援用を排斥しなければ原告のこれら両制度の悪用を容認することとなる。

「反訴請求原因」

一  原告が、本訴請求原因で主張する本件事故が発生し、被告は後記損害を蒙った。なお原告車は事業用小型貨物自動車で、被告車は、事業用普通貨物自動車である。

二  本件事故は、本訴請求において被告が過失相殺の抗弁で主張しているように、原告車の運転手たる訴外浜田良雄の過失によっても生じたもので且つ原告は同訴外人の使用者で、同訴外人は当時原告の業務を執行中であったので、民法七一五条により、原告は被告に次項記載の賠償をなすべき責任がある。

三  被告は本件事故によって生じた損害のうち、原告車の過失割合を考慮して前記相殺の抗弁で主張するとおり原告に対して三二万五、九五六円の損害賠償及び七万七、一一二円の求償を求めうる。

そこで被告は原告に対して、これらに反訴請求のための弁護士費用三万円の合計四三万三、〇六八円及び内弁護士費用を除く四〇万三、〇六八円に対する昭和四九年一一月一日(反訴状送達の翌日)以降完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める次第である。

「時効の援用に対する反論」

本件にあって民法五〇九条の適用を認め且つ原告の時効の援用を容認すれば著るしく正義に反することは、相殺の抗弁において詳説したとおりである。また本件は調停に付されたところ、その期日において原告は双方の債務につき相殺することを認めたので、時効期間経過後に債務の承認があったというべく、よって時効は中断している。

第三証拠《省略》

理由

第一事故態様

一  本訴請求原因、反訴請求原因のうち、原・被告車が衝突した本件事故が生じたこと、この事故につき原・被告が使用者責任を負うべき地位にあること、の各事実は当事者間に争いがない。

二  そこで本件事故発生について原・被告車各運転手の過失の有無、過失割合についてみるに、《証拠省略》を総合すると、

(一)  本件事故現場は、荒川土手から川口市弥平方面へと東西に走る道路(以下「甲道路」という)と川口市本町方面から東京都足立区鹿浜方面へと南北に走る道路(以下「乙道路」という)とが直角に交わる信号機の設置されていない交差点上で、付近の法定速度は毎時六〇キロメートルである。

甲道路の交差点西側(荒川土手より)は橋となっていてその巾員は約六メートルであるが、そのより西側の普通道路部分の巾員は約一一メートルで、他方交差点東側、川口市弥平よりの巾員は約七・五メートルである。

乙道路の交差点北側、川口市本町よりの巾員は約六・三メートル、同じく南側の巾員は約四メートルである。なお乙道路の南方に汚水処理場があって行き止まりとなっている。

(二)  原告車(ライトバン)は、甲道路を西側、荒川土手方面から時速三〇キロメートル位で、被告車(二トン貨物車)は乙道路を北側、川口市本町方面から時速五〇キロメートル位で、それぞれ本件交差点に差しかかったのであるが、双方から相手方車への見通しは良好で、原告車の運転手たる浜田良雄は、交差点手前一一・二メートルの地点で、被告車の運転手たる訴外原耕作は同じく交差点手前八・六メートルの地点で、それぞれ相手方車を認めた。

ところが、訴外浜田良雄が被告車を認めた時点で原告車の方が交差点により接近していたので同訴外人は自車の方が先に交差点を通過できるものと速断し、被告車に注意を払うことなくそのまま交差点に進入した。

他方訴外原耕作が原告車を認めた時点では速度の差で原告車より被告車の方が交差点に接近していたので、同訴外人は原告車が停止してくれるものと速断し、クラクションを鳴らしたのみでそのまま進行したところ、右のとおり原告車が交差点に進入してきたので急遽制動措置をとったのであるが、間に合わず両車は交差点中央付近で衝突して南東方向に滑走し、飲食店西沢秀夫方に衝突して店舗を損壊し、且つ原告車に同乗していた小川雅に全治二ヶ月の傷害を負わせ、原告車の左側面、被告車の前部が破損した。

(三)  前記のとおり乙道路南方は行き止まりとなっているので被告車の進行してきた乙道路を直進する車輛はほとんどない。また荒川土手方面も行き止まりで工場地帯となっているので、原告車が進行してきた方面からの車輛は主に工場関係のものであり、結局本件交差点では左折して川口市弥平方面と川口市本町方面との間を進行する車輛が主である。そのためもあってか、現在では原告車の進行してきた交差点西側に一時停止の標識が設置されている。

もっとも事故当時原告車は本件交差点を直進しようとしていたものであるが、被告車の進路は判然としない。

(四)  本件交差点付近の道路巾員は、前記のとおりであるが、本件事故に関し警察官が作成した実況見分調書には、原告車が進行した交差点西側の甲道路(前記のとおり橋である)の巾員は九メートル、被告車が進行した交差点北側の乙道路の巾員は五・三メートルと記載されていて、原告車の進行した道路の方が明らかに広いことになっており、そして訴外浜田良雄、同原耕作の各刑事処分は、これを前提として決っせられたようである。

以上の事実が認められる。

右認定事実によれば、本件事故は、原・被告車の各運転手が本件交差点に進入するにつき双方相手車の進行に注意を払うことなく漫然と進行した過失によって生じたことは明らかである。

そして双方の過失割合は、本件事故が右のとおり乙道路の巾員がやや変則であるが、進行車輛数の実態を勘案するとほぼ同巾員の道路が交わる信号機の設置されていない交差点上での出合頭の衝突と評価され、そして被告車は一応左折する予定と推認されるので、双方五分五分と見るのを相当と判断する。

第二本訴請求について

一  本訴請求につき、被告は本件事故によって生じた原告の損害を賠償すべき責任があることは自認している。

よって本件事故による原告の損害について検討するに《証拠省略》を総合すると、原告車(ライトバン)は、原告が事故二ヶ月前の昭和四五年八月二六日に新東京いすずモーター株式会社豊島営業所から代金七三万七、三九〇円(但し割賦による金利一〇万四、四〇〇円、その他公正証書作成料を含む)で購入した営業車で当時東芝の工場に月決めで専属的に借上げられ、同工場の職員、弁当の運搬に使用されていたのであるが、本訴ではその賃料は明らかにならなかったこと、事故後原告は購入先の新東京いすずモーター株式会社に原告車の修理代金を見積って貰ったところ、三〇万四、五八円を要するということであったが、原告車の時価、修理しても故障が多いことが通例であることを考慮し、原告車を廃車とし新車を購入したこと、もっとも自動車損害鑑定人秋山正三は、原告車の修理代金を二六万七、九〇五円、事故当時の時価を五六万五、八四〇円と見積っていること、の各事実が認められる。

右事実を前提として原告の損害について検討するに以下のとおりになる。

(一)  修理代金等 三六万九、五五八円

原告は、右代替車代金相当額を損害として本訴で請求しているのであるが、《証拠省略》によれば原告車は修理可能だったのであり、また後記のとおり、やはり本件事故によって破損した被告車を被告は修理して使用していることを考慮すると、右代替車相当額をもって本件事故と因果関係のある損害とは認め難い。

そうすると右の修理代金三〇万四、五五八円及び証人秋山正三の証言によれば、原告車を修理すれば、五万円から八万円の格落ちが見込まれるということなのでその中間値たる六万五、〇〇〇円の合計三六万九、五五八円をもって原告車破損による損害とみることにする。

なお原告車の修理代金につき新東京いすずモーター株式会社の見積りの方を採用したのは、原告車の購入先の見積りであること、及び後記のとおり被告車もいすず製で、その修理代金につき同じ会社に見積って貰っているからである。

(二)  休車損 八万四、一六〇円

原告は代替車を購入するまで三〇日を要し、この間原告車を使用しての営業利益を失ったと主張するが、右期間は代替車を購入するに必要な期間としても長期に過ぎるばかりでなく、前記のとおり原告車は修理可能だったのであるから、修理期間を前提として休車損を算出すべきである。そこで原告車の破損状況、後記被告車の修理期間を勘案し、その期間を二〇日とみることにする。

(なお右期間は、後記被告車の修理期間よりも長期であるが、原告車の方が小型で破損が大きかったと推認されるので、均衡を失っしていることはない)

しかし前認定のとおり原告のこの期間の原告車を使用しての営業利益は不明であり、また証人佐藤三郎は、当時原告は原告車を使用して一日当り一万一、〇〇〇円の粗収入を得ており、人件費、燃料費を差引いて八〇〇〇円位の利益を得ていた旨供述し、その旨の記載ある甲第三号証が存するが、その根拠も判然とせず、直ちに採用し難いところである。

しかるところ、証人井上賢二の証言により成立の認められる乙第一六号証(昭和四〇年三月二三日認可の定額制運賃表)に基づき、原告車(積載量五〇〇キログラム)につき、時間外二時間、走行距離九五キロメートルとみて(後記のとおり被告車についても同じ割合で時間外稼働、走行距離を採用する)、原告車の一日当りの運賃を算出すると五、二六〇円(基礎額三、五〇〇円、時間外割増五六〇円、走行割増一、二〇〇円)となるが、同証人の証言によれば、右運賃表によって算出した運賃は低めであることが認められる。

そうすると原告車が一日当り右金額の八割にあたる四、二〇八円の実収益をあげ得たことは充分認め得るので、その二〇日分、八万四、一六〇円を、原告車の休車損とみる。

二  そうすると本件事故により原告は少なくとも右合計四五万三、七一八円の損害を蒙ったことになるが、前記原告車の本件事故発生についての過失割合を考慮し、過失相殺として五割を減じ、結局原告は、被告に対して二二万六、八五九円及びこれに対する本件事故後である昭和四五年一〇月三〇日(事故の翌日)以降支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を被告に請求できることになる。

三  被告は、原告の請求に対し、本件事故によって生じた被告の原告に対する損害賠償債権、並びに求償権をもって相殺する旨主張しているが、原告の請求は不法行為債権であるから、民法五〇九条によって、仮に被告主張の原告に対する債権が認められるとしても、それをもって相殺できないところである。

なお被告は、同一事故により両者が損害賠償債務を負担する場合には、民法五〇九条の法理に鑑み、相互に相殺することを許すべきである旨主張するが、本件のごとく物損相互間でも相殺は許されないとするのが確定した先例(最判昭和四九年六月二八日)であるところ、本件では反訴が提起されそしてその反訴請求が後に述べるごとく消滅時効によって消滅していないと判断されるので、この先例によっても不合理となるわけではないからこの問題につき特に考慮する必要はない。

第三反訴請求について

一  前記のとおり、本件事故発生につき原告車運転手にも過失があるので、原告は、被告に対して本件事故による損害、並びに被告が共同不法行為者の一人として第三者に弁済したことによって成立した求償債務を賠償すべき責任がある。

二  しかるところ、被告は仮に右債務が肯定されるとしても、すでに時効の完成によって消滅していると主張するので、この点から判断する。

本件事故発生日は昭和四五年一〇月二九日であり、反訴提起日が昭和四九年一〇月二八日であることは本件記録上明らかである。そうすると消滅時効の完成を一〇年間とする求償債務についてはともかく、時効の完成を三年間とする被告の原告に対する不法行為債権については、時効期間経過後に訴が提起されたことは明らかである。

しかしながら本件記録によれば、本訴の提起は本件事故による不法行為債権につき時効完成の直前たる昭和四八年一〇月二七日になされ、担当裁判官により同年一〇月三一日に職権によって調停に付され、同年一一月三〇日に被告に訴状副本が送達されている。そうすると被告が原告の本訴提起を知った時には既に時効期間を経過していたわけである。

同一事故によって双方が損害を蒙った場合に、一方の当事者が相手方において損害の賠償を請求するのであれば自己も相手方に請求するが、請求しないのなら双方の損害賠償請求権を時効によって消滅させて解決しようとの態度をとることは少くないと思料されるが、その場合にその一方当事者が権利の上に眠っているのでないことは明らかである。

そうすると本件のごとく一方当事者が消滅時効完成直前に損害賠償の訴を提起したので、他方当事者は反訴を提起したり、催告によって時効を中断したりして自己の請求権を保全する余裕もないうちに消滅時効の期間が経過してしまうことも生じ得るところである。

そのような場合に適宜な期間内に反訴が提起されたのに、その請求は時効によって消滅したとして本訴提起者の請求のみを認めるのは公平に反すると判断せざるを得ない。よってかかる時効の援用は信義則に反し許されないと解するのを相当とする。

もっとも本件にあっては本訴提起後一年余を得て反訴が提起されているが、それは前記のとおり調停に付され、昭和四九年九月一一日まで調停期日が開かれていたからであり、調停終了後第一回口頭弁論期日が同年一一月六日と指定されるや、被告はこの第一回口頭弁論期日に前記のとおり反訴を提起しているのであるから、適宜な期間内に反訴の提起があったものと見てやはり、原告の消滅時効の援用は許されないところである。

付言するに同一事故により双方が損害賠償債務を負担する場合にあっても民法五〇九条の適用があるとの前記先例が確立したのは右調停中であり、その前にあっては下級審においては物損については同条の適用はなく相殺の抗弁は許されるとするのが有力な取扱いだったのであり、従って本訴提起当時原・被告ともその旨の取扱いがなされることも予期していたはずであるから、右のごとく解しても特に被告に有利に取計ったことにはならない。

よって原告の消滅時効の抗弁は採用しない。

三  そこで本件事故による被告の損害について検討するに、《証拠省略》を総合すると、被告車(二トン貨物車、いすず製)は、事故一ヶ月前の昭和四五年九月二六日に登録されたもので、燃料には軽油を使用し、被告はこれを営業車としていたこと、事故後被告は直ちに新東京いすずモーター株式会社に修理代金の見積りを依頼したうえ、修理も依頼し、昭和四五年一一月一二日に引渡を受けたが、この間代車を借受けて、被告車の従事していた仕事に当らせたのであるが、その料金は不明であること、原・被告車が衝突して損壊した西沢秀夫方店舗の修理代金一二万八、四七〇円は被告において昭和四五年一二月二〇日に支払ったこと、の各事実が認められる。

右事実を前提として被告の損害について検討するに、以下のとおりとなる。

(一)  修理代金 三一万三、二六〇円

前記乙第二号証の一、二によれば被告車の修理代金として右金額を支払ったことが認められる。

(二)  車輛格落ち分 五万円

被告車が修理によって右程度の格落ちがあったことは当然推認できる。

(三)  休車損 八万二三二〇円

右認定事実からすれば、被告車の代車の賃料分が休車損となるところ、その額は右のとおり不明である。しかし前記定額制運賃表(乙第一六号証)による運賃は低額なので、これに基づいて被告車による収益を算出してそれを賃料相当額とみて差しつかえないと判断する。そこで原告車と同じく時間外二時間、走行距離九五キロメートルとみて被告車の一日当りの運賃を算出すると六、八六〇円(基礎額四、四〇〇円、時間割増七六〇円、走行割増一、七〇〇円)となるので、その八割を実収益とみると一日当り五、四八八円となる。

よって事故当日から昭和四五年一一月一二日までの一五日分の八万二、三二〇円を被告車の休車損とする。

なお証人井上賢二は、被告車は嵩の大きい物を積んで品目割増料を得ていた旨供述し、その旨の乙第二〇号証も存するのであるが、右のとおり被告車が現実に得ていた運賃を求めるわけではないからその点について考慮しない。

(四)  過失相殺

右損害合計は四四万五、五八〇円となるところ、前記被告車の本件事故発生についての過失割合を考慮し、過失相殺として五割を減じると被告が原告に賠償を求めうるのは二二万二、七九〇円となる。

(五)  求償債権 六万四、二三五円

前記のとおり被告は西沢秀夫に店舗修理代金一二万八、四七〇円を支払っているところ、原告車の過失割合を考慮してその五割に該る金額を原告に求償できる。

四  なお被告は反訴提起の弁護士費用も請求しているのであるが、物損及び求償債権を請求している本件にあっては本件事故と弁護士費用は因果関係のある損害とは認められない。

そうすると原告は被告に対して右損害賠償分二二万二、七九〇円及び求償債権六万四、二三五円の合計二八万七、〇二五円及びこれに対する事故後であり且つ被告において西沢秀夫に修理代金を支払った後である昭和四五年一一月一日(反訴状送達の翌日)以降支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を請求できることになる。

第四結論

以上の次第で、本訴請求については、第二項の二で述べた限度で、反訴請求については右の限度で理由があるので、それぞれこれを認容し、その余の各請求は理由がないのでいずれも棄却することとし訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、仮執行の宣言について同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 岡部崇明)

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